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吹き飛ぶ土壌!折れ飛ぶ木片! おおよそ自然が出すであろう最大音量の悲鳴を撒き散らしながら、あたりが破壊されていく。 破壊の中心には、三人……いや、一人と、二匹。 射人・オックスガータは、感覚に突き動かされた自分の行動を後悔していた。 「やっぱ、あんとき帰っときゃよかった!チクショー!」 必死で逃げ惑う射人に振り下ろされる巨腕……否、鉄槌。雄に3mを越す大型の【鬼】が三日月形に口をゆがませ、射人を追尾する。 打ち下ろされるたびに、轟音が周囲を包む。 間一髪でかわした一撃は、触れずとも顔の肉を歪ませ、その威力を物語る。そして、それ以上に展開されている破壊劇は、誰の目にも必殺の一撃を予感させる。
射人は、【鬼】に追われていた。
Other Top BBN〜もう一人の巫〜第八話・【鬼】VS【銃】
こうなった原因は、数分前。射人が一人の少年を追跡していたときにさかのぼる。 病院服の下に仕込んだなけなしの武器を確認しながら、射人は黙々と森の中を進む、少年を追跡していた。 雰囲気が、異なる生き物。……化け物。 そう、感じたからの行動である。 戦う気などなく、またどうする気もなかったが、射人の全身が告げていた。「こいつは敵だ」と。 衝動が射人を突き動かし、そして意思もそれに追随した。 (……かといって、何をすればいいのかまったく検討もつかねぇし……) 月の光が注ぐ木立の間を、気付かれないように足音を殺し、足跡すらつけぬように石の上を歩く。暗殺者としての訓練を受けた射人ならではの移動法。 (兎に角、『見届ける』ってことだけは嘘じゃない) それとはまったく対象に、まるで己が底にいることをさらすかのごとく、葉を踏みしめ、枝を踏みおり、石を蹴り、消す音はまったくなく少年は前を進んでいく。 ただ……一種の美しさを覚える、狂気。それは、はっきりと感じる。怖気を呼ぶ、背筋の戦慄。訳がわからない衝動の原因の一つ。 射人は、ただ黙々と追い続けた。 衝動に動かされ、漠然とした不安を掲げながら。
もう、何十分歩いたかわからない。感覚はいつの間にか麻痺した。
射人は、はっ……と息を呑む。 (……!) ついに少年は歩みを止めた。 そこは、つい先日射人が異形の魔物たちと死闘を演じた場所。 実際、射人は今も体の至る所に負傷を抱え、わき腹はようやくくっついている状態。医者には「回復が早すぎる」と本気で驚かれていたが怪我人には変わりない。 閑話休題。 今、いる場所はそんな事情で射人にとっては思わず吐き気を催すほど、いやな思い出ぐらいしか思い出せない最悪の場所である。 こみ上げる胃物を飲み下しながら、草むらの中から歩みを止めた少年を『見る』射人。 一瞬後、射人は再び息を呑んだ。
「出ておいで、『瞬艦』」
少年が空を掴むように右手を突き出し、まるで鈴の音のような高く透き通る声で、話す。 それは周囲に響き渡り、射人の鼓膜を叩き、体を震わせる。 (……うぁ、ヤベェッ……!?) 若々しいその声は、美しさだけでなくどこか悪魔的な旋律も帯びており、戦慄をもって射人を内面から揺さぶった。思わず、後ずさりする体を必死に堪え、止まりそうになった呼吸を落ち着かせる。 本能的に感じた、魔性の魅力。狙って放たれたものなのか、天性のものなのかそれはやはり人のモノではありえなかった。 そして、それは直ぐに別の意味を持って、この場に弦隣することになる。
……少年の右手から、出現した【鬼】によって。
(嘘だろっ……!!) 射人はまたも息を呑んでしまった。明らかに小さな少年の右の手のひらに、吸い込まれるようにして集まった宵闇が少しずつ質量を伴って実体となる。 声が発された数秒後には、そこに確実に存在する、片膝をつき、少年に臣下の例をとる3mを越す黒鬼があった。 「ご機嫌麗しゅう、カゼガミ様。お呼びでしょうか」 【鬼】の口内から発せられる、思いのほかさわやかな声。30台のホストがこんな甘さを含んださわやかな声を出すのではないだろうか。 それに、少年はにこやかに答える。 「うん、ご苦労様。で、『どうなったのかな?』」 体制は殆ど変えず、黒鬼が片膝のまま、口を開く。 「は……。使役されていた下級の鬼共は、巫時雨とその連れによって、殲滅されましてございます」 「そう」 少年は、黒鬼の報告を受けると、満足げに頷きながら、体の向きを黒鬼に向け、頭をなでた。 「『瞬艦』君は流石に優秀だね。あの巫時雨に悟られずに任務を遂行できるんだから……ボク自慢の僕だよ」 「は……。ありがたきお言葉」 黒鬼は、なでる動作を嫌がる様子もなく受け入れ、主からの言葉を受け取る。それはどこから見ても完璧な主従関係。 「引き続き、監視を続けてね。一ヶ月後、彼を導くのが僕らの役目なんだから」 そこまで言うと、なでていた手を止め、少年がぱしん、と両手を叩く。それと同時に、周囲の木立に停まっていた鳥達が一斉に飛び立つ。 「ああ、そうそう」 少年の瞳が、射人のほうを向く。 それまで、魅入られるように光景を見続けていた射人だったが、その鷹に射抜かれるかのごとく、急に研ぎ澄まされた瞳に打ち抜かれる格好で、全身が硬直してしまう。 「『ごみの始末』はきちんとしてね。『瞬艦』」 その台詞に、ただでさえ逆立ち続けていた全身の怖気が、脳内の警報装置がMAXになって射人に叫びだした!
「「「逃げろ!!!!」」」
「御意」 黒鬼が三日月形に口を歪ませ、顔を上げたときには、もう射人は全力で元来た道を駆けはじめた。 (ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!ヤバイッ!) わからないけどヤバイ。 わかるんだよヤバイ。 全身を構成する100万を超える細胞が、脳内に広がる構築されてきた何億の経験が、射人という存在を逃亡へ駆り立てる! 「――――――――――!」 自分でも聞き取れない叫びを上げながら、今までの人生で最大の速度を出して逃げる!逃げる!逃げる! くっつき掛けていたわき腹が別途で悲鳴を上げるが、恐怖が打ち勝ち、痛みを超越した動きで逃げ続けるっ! (――――――――!?)
が、
それ以上の速さで、
漆黒が、並が射人を飲み込む!
「ガァアアアアアアア!!!」 黒鬼ではなく、射人が声を上げ、後方から襲ってきた必殺の一撃を横っ飛びして回避! 後方ではじけ飛ぶ土塊!穿たれる大穴っ! 「じょうっ、だん、じゃ、ねぇーぇええええええええええええ!」 右に横っ飛びした状態から、無理やり右手をついて側転し、黒鬼の第二撃を回避。前方向に回転力を変換して起き上がり、軋む体を酷使して再び走行。 それを、まるで蟲を潰すのを楽しむ子供のように、笑いを浮かべ追跡する黒鬼。 この間のバトルとは別次元の、狩る者と狩られる者の圧倒的実力差を、射人は感じざるをえなかった。これは、人の戦える相手では無い……と。
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